0と1と少女 No.3 「謎」  作:音 音音

 学校を出て家に帰る。もちろんあの不思議な箱は鞄の中に入れて持っている。
 腕時計を見るともう5時頃になっていて、太陽が半分ほど山に隠れていた。
 僕の家は路地裏を通る。
 学校から少し出たところにある路地裏は、迷路のようなもので、その迷路を100メートル程歩いたところで自分の家に着く。
 たまに、それでは友達が来るとき困るんだろうなぁと言われるが、実は学校に行く道には二つあり、一つは路地裏を通る道。もう一つの道はすぐ国道に繋がっていて、もし路地裏の道が分からなかった時は国道から入るのでそれほど困ることもない。
 とりあえず今日はなぜか路地裏の道に行きたくなかったので国道を選ぶ。
 僕も人間だ。たまにはこういう道を選びたくなる。
 ……いや、考える時間がほしかったのかも知れない。
 だが、僕にはその考える時間を使わせてくれるほど、甘くはない現実が立ちはだかっていた。
 ……今思う。国道を選んだのは間違いだった。
 正面に拳銃を向ける危険な少女が立っていた。少女は黒い髪で僕より背が低く、ツインテールに髪をまとめていて、うちの制服を着ているなんともかわいい少女が立っていた。
 しかし、今銃を突き付けられている以上、見とれているわけにはいかなかった。
 いや、銃ではないのだろう。きっとおもちゃの銃かなんかだろう。本当に銃を持っていたらそれこそ警察行きだ。
「持っている箱を渡しなさい」
 少女は鬼のような顔で僕を睨んでくる。そして、銃の引き金に人差し指を置いて射撃体勢に入っている。
 片手で銃を持っているところを見ると、おもちゃの銃のように見える。だが、相当手慣れていたとしたら……と考えると、本物の銃の可能性をぬぐい切れなかった。
 銃を持っていない方の手で『よこせ』と合図している。
 正直、早くもこんな展開が来るとは……。今日話した生徒達は全て狂っていた。初見の人から用事を頼まれ、初見の人になんだか怖いものをもらい、そしてこの人にそれを渡せと。
 夢だったとか、どっきりでした! とかないのか?
 ……どうやらこれは現実のようだ。
「何一人で悲しんでいるのよ?」
 しかもこの言葉使い、ツンデレというそうだが、僕にはさっぱりだ。なぜこんな子を好きになるのか。ああ、こんなこと考えてる自分がどんどん悲しくなってくる。
「何考えてんのよ!」
「いたっ!」
 何かが頬に当たった。でもそんなに痛くもなく、少女が持っている銃と頬の痛さを考えれば……おそらく銃弾はBB弾だろう。
 僕はその痛みに喜びを覚えた。
 僕は決してMではない。
「ちょ、何人にBB弾当ててるんですか! 怪我したらどうする!」
「知るか! だいたいっ、あんたが箱を渡せばいいだけの話じゃないの!」
「箱?」
「そうよ。銀色の開くところがない箱、それを渡さなければ……あんたを撃ち殺す!」
 箱……そういえば言っていたな。だが、たかがおもちゃの銃。BB弾とはいえ、致命傷にはなるまい。
 僕は少し、ほんの少し笑みをこぼしてしまった。それが少女の導火線に火をつけるとも知らずに……。
「撃ち殺す? 何……言ってんの。BB弾で人を撃ち殺せるわけないだろ。小学生じゃあるまいし」
 少女の顔はさらに醜く歪んでいた。
 まるで、僕自身に情けはもうかけられない。前山の人生にはもう価値がないと見限るかのように。
 目の前の人に対し、見限るような顔をする少女は左手でポケットからピンク色の携帯電話を取り出した後、何か操作をしてポケットに携帯電話を戻した。
「ん?」
 僕にはその行為がさっぱりわからなかった。なぜ、こんな時に携帯なんかいじる必要があったのか。
「ただのBB弾だと思ったら……大間違いよ」
 そう言って少女は余裕の表情で銃口を目の前の地面に向け、引き金を引いた。
 その時だ。豪快な爆発音と共に視界全体に土煙が広がり、僕の前に大小様々の瓦礫が飛んできた。僕はぎりぎりで頭を両腕で覆い、腹や腕を瓦礫で殴られながらもなんとかこの場をしのいだ。
 今何が起きた!?
 体中が痛い。
 確認するために少女の方へピントを合わせる。土煙が去り、爆発音のしたところはなんとも現実には考えられないことが起こっていた。
 少女と僕の間に直径三メートル、深さ五〇センチ程の円形のへこみができていた。
 へこみには大量のヒビと瓦礫が残っていて、爆弾でも仕掛けていないとこういうことは起こらないはずだ。
 頭の中が非現実的な情報で混乱する。
「何、驚いてんのよ?」
 その声に僕は眼前の死という焦りを覚えた。
 自分の破壊力を見せつけ、びびって動けないものを狙い交渉する。なんと楽で確実で、交渉を有利に進められる方法だ。
 しかし、予想とは裏腹に大きなへこみの奥には土煙をかぶった少女がいた。少女も多少の被害を被っているようだ。
「この破壊力を見れば解るでしょう。……箱を渡しなさい」
 少女は余裕ぶった顔で手を出す。
 よく考えれば、部長さんが言っていることは事実のようだ。あんな暴力的な破壊力をもって箱を要求する自体、事実と言われざるを得ないだろう。
 さて、どうするかな。そのまま渡すと大変なことになりそうな気もするし、渡さなかったら殺されそうだし。
 何しろ、あの武器がどんなプロセスを伝ってこんなことが起きるか分からないのだ。逃げる余地はない。
 ……もしかしてあの銃はフェイクか。だとすれば地雷? ……あり得る。
 だが、どうやって逃げる? 地雷の設置場所が分からない以上、ここからは動けない。
 そもそも地雷という確証がない。これじゃあふりだしじゃないか!
「そこに箱が入っているのね」
 少女は余裕の表情で箱がある場所に気づき、銃を向けたまま歩いてきた。
 当然僕は動けない。だが、至近距離だからこそ、一瞬だけ、反撃する時はある。
 至近距離だからこその、素人でも勇気さえあればできる、唯一の反撃方法。
 だがこの方法は、地雷がないということが前程だ。もし万が一、地雷があったら、僕は即死亡だ。つまりは賭けである。
 銃口が額の上につき、左手は鞄の中に入る。鞄の中に左手が入った瞬間。僕は唯一の攻撃である銃を奪い取ることができる。
 左手が鞄のチャックを開き、中へと入っていく。少女の眼は一瞬だけ、鞄の中へと注がれた。
 それを僕は見逃さなかった。
 僕は銃だけに集中し、空気をも切り裂くような速度で地面から一気に拳銃の砲塔を掴み、少女から奪い取った!
 少女の顔は驚きに満ちている。自分さえも驚いた。こんなことができるなんて思わなかったから。
 僕はすぐ持ち直して少女に銃を向けた。
 と思ったが、少女の姿はそこには無かった。少女はもう次の体制に入っていたのだ。僕が人を殺せないということを知っていたかのように。
 少女は僕の懐に入っていた。すぐさま目の前にある腹部を一発殴る。ただ殴られただけなのに、内臓が中で暴れ回るような深刻な程のダメージと、吐き気が襲ってきた。体がくの字に折れる。
 懐に入られているため、腹を手で覆うことすらできなかった。むしろそうすれば、わざわざ少女に銃を渡すようなものだ。
 少女の機械のような目は、僕をただのサンドバックにしか見ていないように、続いて2,3発同じところに繰り出した。
 痛みに耐えかねて、持っていた銃を落としてしまう。
 こんな華奢な少女にこんな力があるとは、正直考えられなかった。一発ごとの重さが半端ではない。
 意識が薄れ、痛みに耐えきれなくなってまっすぐに倒れかかった時、眼前に鬼が現れた。その顔はもう少女のものとは思えなくて、可愛さのかけらもない。
 鬼は笑みを浮かべ、腹部より強烈なアッパーを喉元に押しつける。僕の体はほんの少し宙に舞い、硬い地面に叩きつけられた。
 空を見上げた後の一瞬のホワイトアウト、僕の視界という名のキャンバスはほんの少しの間だけ白く染まり、再び視界全体に広がる空の色で塗りなおした。
 絶望感に浸る心。荒い呼吸。体中に渡る痛み。はぁ、僕はもう終わってしまうのだろうか。たった15年で僕の人生終わるのだろうか?
 痛みと絶望感から体を一切動かせない僕に、鬼は銃を向けていた。
 鬼に表情が無かった。冷静に任務を遂行し、情など心の中から追い出したような、まさに機械人形のような、そんな顔。
 せめて、痛みを感じないうちに死にたい。
 できれば生きたい、だが、僕にはその選択肢が眼前の鬼によって潰されていた。
 痛みだけは感じたくはない。
 僕の本心に応えるように、瞼は自然と光を遮った。

 あとがき

 たぶんここからの話を知らないとは思うんですけど。知っていたらすみません。
 今回は、自分の語彙の足りなさを実感したものです。
 正直、もう少し小説を読まなければならないと思いました。
 最近は来年春に映画化される『半分の月がのぼる空』(電撃文庫)を読んでいます。
 主人公の心が上手く描写されている作品でして、難しい語は出ないのですが、比喩などが上手い作品です。
 ある意味、そういうところが実写化されて、文庫も大ヒットされる原因の一つにもなるのだと思います。
 恋愛本ですので、アクションやバトルは期待しないでください。
 ヒロインもしっかりできています。
 ヒロインのことをあまり言うとネタバレになりますので、最低限で話しますね。
 ヒロインはとても儚げな少女です。
 とても可愛いのですが、とてもほっそりしていて、どんな言葉よりも『儚い』という言葉が私的には似合うと思います。
 まぁ、あまり言いすぎるとあれなので、もしよろしければ読んでみてください。

 あなたの貴重な時間をこの小説に費やしてくれたことに多大なる感謝を。


コメント

3点 ヨワモノ 2009/10/17 20:24
家の位置とか、詳しく説明されていて良かったです。


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