愚かな人  作:音 音音

 これは、僕の人生の一部。

 何の変哲もない、面白味もない話。

 だけど、そんな話を小説として皆に伝えたいと思ったのには当然わけがある。

 ……皆にこのことを気付いてほしいからだ。

 もちろん、気付いているなら構わない。

 だけど、気付いているのならなおさら、改めて考えるべきではないのかなと思う。

 ……前置きが多かったね。じゃあ始めようか。

 榎本 和(えのもと かず)の人生の一部を。


 それは教室でのほんの与太話になるはずだった。


「榎本」

 男性の声によって、僕は教室の横のベランダに呼ばれた。

 コンクリートの白さがいつも清さを彷彿としていたのに、今回は違った。

 3,4人の男たちがそこにはいた。

 どれもガラが悪そうな目つきをしてこちらを睨んでいる。

 ……一人がだるそうに口を開く。

「榎本、もうちょっとまともにサッカーやってくんないかな。そうじゃないとこっちも困るんだけど」

 サッカーというのは、最近になってから体育の授業でやっているスポーツだ。

 戦力にならない私に対して怒っているのだろう。

 バカかこいつら。部活でもないのにそんなことを言われても治るわけがない。

 だからさぁ、と別の男が提案してきた。

「今日の放課後、教室に残ってくれない?」

 僕は敏感に感じ取った。

 こいつら、僕をリンチするつもりか。

「教室でサッカーの基礎教えてやるから。勉強は得意だろ?」

 ちなみに、僕の順位は140人中4位だ。だけど、そうだからといって勉強が得意というわけじゃない。

 とりあえず、この場を穏便に済ませることにした。

「は、はい。分かりました」


「……ねぇ、榎本君」

 僕は椅子に座って机を呆然と見ていたので、思わず顔を上げた。

 心配するように声をかけてきてくれたのは、久留米 葵(くるめ あおい)という女子生徒だった。

 髪をツインテールにして、その美貌から、「鉄壁の葵」と呼ばれている。

「鉄壁の葵」と呼ばれるのは、男性の一部だが、その理由は恋愛感情からだそうだ。

 だけど、僕はこの人とはあまり接したことがない。

 なのにどうして?

 久留米さんは尋ねる。

「榎本君って、今日調子が悪いの?」

「え、なんでそう見えるの?」

「だって、榎本君、顔が落ち込んでいるもの」

 どうやら放課後のことが顔に出ているようだ。

 ほらほら、と久留米はいきなり僕の両頬を両手でひっぱりだした。

「ひゃーひゃひほ」

「こうでもしないと、治らないでしょ」

 久留米さんは適当に引っ張った後、両頬から手を離した。

 ただ、人差し指を顎に当てて、考えるようなしぐさをした。

 ふいに、冷たい声が届いた。

「榎本君、ベランダでしゃべっていたこと、全部知ってるんだ」

「え?」

「榎本君、変わってるから、あんなことに巻き込まれるんだよね。でも、しょうがないよ。変わってるっていいことなのに、世間はそれを非難するんだから」

 いきなり久留米さんは小難しいことを言い始めた。

「授業ってあれは皆、同じことを習ってるよね。ということはね、私たちは皆、同じなんだって無意識に覚えてしまうの。人は皆違うはずなのに、だからいじめができるんじゃないかなって思うんだけど。……榎本君はどう思う?」

 しばらく考えて、僕は口を開く。

「自分ができるから、僕もできるって勘違いしてしまうんじゃないかな。世間がさ、こいつらは不良だアホだなんていうから、(あの人たちは認めないだろうけど)そういう意識がどこかにあって、だから、アホでもできるからこそ、皆ができるって勘違いするんじゃないかなって思う」

「みんなね、そういう思いと戦ってると思うの。だけど、一部の人がその戦いすら知らなくて、結果的に駄目な人間になるんじゃないかな」

「気付かせることはできないのかな?」

「無理ね」

 また、冷たい声を浴びせられた。

「今のこういう人たちに、哲学じみたこといったって聞かないでしょ。一見本人には我が道堂々と進んでいるように見えて、実際は現実逃避しているだけなんだから」

 その時、チャイムが鳴って、この話に終止符が打たれた。



あとがき


すみません。なんかしょうもない話を書いてしまいましたね。

そろそろ小説大賞の〆切でしたから、一回でも書いておこうと思いまして。でも、この小説では厳しいかもしれませんね。


この小説に多大なる時間を消費してくださった読者のみなさんに感謝を。


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