悪魔の手先 NO.10  作:キョン

狭い寝室の中……思春期真っ盛りの男女……嫌でも広がる妄想……今!そんな物語が!…始まらなかった。

天王は部屋に着いた途端にベッドにもぐりこみ寝息をたて始めた。

そんな中で物語が始まるわけがない。そんな人に対して、自分だって意識する必要性はないんだよと言い聞かせ、ベッドに入った。

意識しているわけではない。もう一度言おう、意識しているわけでは決してない。決してないが同じベッドに入っていれば嫌でも感じる相手の体温で鼓動が速くなる。

2倍の速度ではないかという速度でベッドが体温に近づいてゆく。寝息が聞こえるほどの静寂の中で、自分の鼓動がさらに速くなる。

相手に聞こえないかという不安があるが、熟睡しているだろうから大丈夫だろう。少しづつ呼吸を落ち着けていく。

しかし、一向に収まる気配がない。むしろ、まだまだ速くなっているようだ。落ち着け水岡七海子!!あんたは落ち着ける!!落ち着け、落ち着け、落ち着け…

そこで殺気を背後に感じた。反射神経をフルに活動させて振り返る。

そこにはあやしく光る二つの目玉があった。もうお分かりだろう。

「………………本当にあんた学習能力って知ってる?」

そこには怒りをあらわにしている天王がいた。

「ご、ご、ごめん……」

何がうるさかったのだろうか。心臓の鼓動に気付かれたのだろうか。それがばれてしまったら、顔から火が出るどころの騒ぎではない。全身から破壊光線を噴射してしまう。いや、まぁそれも十分に恥ずかしいとは思うが。

「落ち着け、落ち着けって何に落ち着くんだよ」

こう言いながら再度眠りに入った。気付かないうちに口に出してしまっていたようだ。なんという古典的ボケ。

10秒後位には寝息がまた聞こえる。というかこっちを振り返ったまま寝ないでいただきたい。顔を向ける方に困ってしまう。

仕方ないので顔を反対に回して目を閉じる。まだ心臓が速く鼓動しているというのに、息がこちらにかかっているのが分かる。背中に当たる息で温かくなっていく。

心臓が今にも爆発してしまいそうだ。血液が異様に循環している感じがする。体中の血管が血を噴き出して破裂してしまいそうだ。心臓がキリキリと痛み、呼吸が速まる。

さすがに息の音では起きる気配はなく、すーすーと寝息をたてている。

心臓の鼓動が限界に達したとき、私の意識が途切れた。

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私は今天王とミズが眠っている部屋の前に来ていた。

こんなことを話せるのは奴しかいないと感じたのは必然だろう。私よりも成績も理解力も状況判断力も優れていると言ったら奴しかいない。この中では。

覚悟を決めて部屋のドアノブに手をかけようとした瞬間、ガチャリとドアが開いた。

「あっ」

そこには天王がいた。

「そろそろだろうと思ってたよ」

「え…分かってたの?」

「まぁ……ある程度なら考えられたから、出本はあてにならないし、水岡はあれなんだかんだで天然だからさ。いずれ来るだろうなとは思ってた」

「あ、じゃあ寝たかったのはそのために体力を温存しておくため?」

「それはマジだ」

「あ…そう…」

そんな会話を交わしてからさっき食事をした部屋に向かった。

「お前、どう思うんだ」

歩きながら天王が聞いてきた。

「う〜ん、取り合えず異常な事態に巻き込まれているのは確かね。根拠も挙げるとまず『なぜこの高尾山でまだ私たちが発見されないのか』ね」

「確かにな、ここはさっきの山道からそう歩いている所ではない。遭難の時に道のそばほど発見されやすい所はないだろう」

天王は胸の前で腕を組みながら言ってきた。一切の感情もこもっていなさそうな漆黒の瞳で前を見ながらさらに一言、

「だが、ここは俺たちが近くに寄るまで確認できなかった。それもこんなにデカい建物がだ。さらに場所も問題だ。なぜこんなところにこんな建物が建っているか一切理解できない」

「確かにね…」

私もその点については理解しがたいものがあった。

「中は中でえらいことになっているしな。食器、材料、寝具は…まあいいとして、それ以外は明らかに人がいないと不自然な状況だ。 どんなバカでも人がいないと分かっていながら食材を放置しておくことはないだろう。」

「確かに…ね…」

窓がガタガタと揺れている。風が激しくなってきたようだ。

山の天気は変わりやすいって言うけど、こんな風に豹変するものなのか。

すると、風だけではなく雨も激しく降り出した。雨が屋根に当たる音が響く。

私は、そんな激しい音にも構わずに歩いて行く天王を若干尊敬しながらついて行った。

「ちょっと待って、歩くのはや……」

その刹那、窓から黄色い閃光が入ってきた。

「えっ――――――」

ピカッ―ドッ、ゴロゴロゴロ………

雷がどこかに落ちたようだ。

「キャアッ!!!!!」

「うおっ、何だ」

私は反射的に近くにいた天王に飛びついてしまった。

「…………ああ、なるほど、雷駄目なんだな。へえ、なるほど(微笑)」

私はこの一言で我に帰り、天王から離れた。

「ご、ごめん……」

「いやぁ、別にいいんだけどねぇ。へえなるほどぉ、雷ねぇ……(ものすごく悪そうな微笑)」

「うっ…」

「なるほどぉ、ああ、心配しなくていいよ、あいつらには言わない確率5%未満だから(めっちゃ悪そうな微笑)」

「ううっ……」

何だこいつ、意外とSなのかよ…。

天王に自分の弱点をさらけ出してしまったことを若干後悔していると、さっきの部屋に着いた。

天王はドアを手で乱暴に開けると、手前の椅子に座った。私はその奥の椅子に座ると、さっきの話を再開させた。

「それで、他の君の意見を聞かせてもらいましょうか?ワトソン君」

「とりあえず俺にわかるのはこんなもんだな、意外と乙女チックな門戸君」

「…………………」

私はだんだんと恥ずかしさが込みあげてきた。顔が赤くなっていないだろうか。

「これ以上挙げるとなると、完全に根拠のない、ただの憶測になってしまうからな」

「うん、そうだね…」

ではこの次に重要な議題だ。

「じゃあ、明日以降はどうするの?」

これは私たちの置かれている状況で最も重要な議題とも言えるかもしれない。明日以降、ここに留まって救助を待つのか、それとも山道に戻るために動くべきか。

「それは明日、全員で決めることだな。 ちなみに俺の私的な意見を申し添えておくとだな、俺はここに留まるべきではないと思う」

「……私と反対の意見だね。私の私的な意見はここに留まって助けを待つべきだと思うよ。ここなら雨風も防げるし安全だ」

天王は黙ったままこっちを見ていた。そして、

「………では、こういうことをしたら納得するか?」

そう言うと天王は立ち上がり、少し先にあった棚に近づいた。

「ちょっとこっちに来い」

そう手招きをして天王は私を呼んだ。

良く状況が飲み込めない私は、眉を寄せて近づいて行った。

天王は私が来ると棚を開けた。特に何も入っていない。

「今は何も入っていないだろう?」

「なんの確認よ、それは。 まさかそんなのも認識できないバカだとでも思ってんの?」

「そうじゃないが、まあ見てろ」

そう言って棚を閉めた。すると天王は目をつぶりしばらくそうした後もう一度棚を開いた。

「………!」

そこには鉛筆が一本入っていた。

「わかったか」

天王はその鉛筆をつまみあげると、私に差し出してきた。

「ここは居るべきところではない。いや、訂正しよう。居てはいけないところだ」

私はまだ目を見開いたまま、茫然とその鉛筆を凝視していた。

<悪魔の手先 NO.10完>

=作者より=

おはようございますからおやすみなさいまで、作者です。

今回の棚のシーン、あれはとある超有名な小説のパクリです。別に言ってもいいでしょうけど、あえて言いません。気になるかたは調べてみてください。

で、今回のやつは相当核心に迫ってきています。ぶっちゃけた話をすると、そろそろ核心に触れていかないとえらいことになります。いろいろえらいことになります。

ただでさえNO.10ですよ?それでやっと核心に触れるって………

まあ気長になんて言ってる場合じゃないですよ。まさかのNO.20まで行っちゃう?なんてことになりかねないんですよ。

どういうことですか、NO.20って、禁書○録でさえ14,5巻ですよ?確か。

それでは、このような拙い小説に時間をかけてくださったあなたに感謝を。次回乞うご期待!!


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