純子よ! あの時私は我慢したが・・・  作:高杉伸二郎

「ねえ、今日はお休みなの?」
伸二郎の下宿先に純子が訪ねてきた。
「僕は休みだけど、隣の部屋の塚原はいないよ」
「じゃあ高杉さんのところにお邪魔しようかな」
 勝手に部屋に入ってきた。純子は塚原の同級生の女子大生で伸二郎より一つ年下である。伸二郎がこの下宿に来たときに、すでに塚原は隣の部屋に下宿していて、純子は仲間数人と彼のところによく遊びに来ていた。その関係で伸二郎も彼女達と顔なじみだった。

 開けられた窓から初夏の日差しが部屋にまばゆく照らし出し明るかった。そのとき急に風が吹き、埃(ホコリ)が舞い上がったので、窓を閉めようと立ち上がった。純子は窓際に立って外を眺めている。
「埃が入ってくるから窓を閉めるよ」
引き戸窓になっている外側の戸を閉め、ネジカギを回そうとした。現在ではネジのカギは殆ど見かけないが、昔は螺旋状のネジをまわして閉めるカギが多かった。
 カギは、彼女が立っているので、そのちょうど胸のところにある。
「ちょっと失礼」体を少し離したので右手でネジを回した。そのとき、右手の甲に純子のふくよかな乳房が触れた。
「おっと、済まん、ごめん」
とつぶやきながら、ネジをしめるため手を動かした。純子は胸を押しつけたままだ。張りのある乳房の、その乳首が伸二郎の甲の中指の付け根に感じる。
(なぜよけないのかな……、でもそのままの方が有り難いが…)
ふと顔をみた。彼女は知らん顔して相変わらず透明ガラスの窓越しに外を眺めている。胸が触れているのが分からぬ筈がない。そこを離れ何もなかったように静かに向き合った。
「こんな天気のいい日に家の中にいるのは、もったいない気がするね」
「うん……」聞こえないくらい小さな声でうなずき、
「最近、私寂しいの、お話しするお友達もいないのよ」
「そんなことないだろう。いつも一緒に来るお友達もいるじゃないか」
「でもね、くだらない話ばかりで、何というか、…もっとその映画とか、音楽とかの話題がなくてつまらないの」
「僕なんかも無趣味だし、つまらぬ話しかできないよ」
「いいえ、高杉さんはム−ドが違うわ。ご一緒にいるだけでうれしいわ」
(でも共通の話はなさそうだ。純子は何を話したいのかな)
伸二郎は首をくるりと回し、肩を2、3回上下させた。
「あら、肩が凝っているでしょう? 揉んであげるわよ。私、家でおばあちゃんから肩揉みが上手っていわれているのよ」
「恥ずかしいな、肩なんか揉んで貰うなんて困るな。いや、嬉しいけど。誰かに見られたら変に思われるよ」
「誰もいないでしょ。向こうを向いて、さあ」

「うん、なかなか気持ちいい,うまいもんだね」
 しかし、2分もしないうちに
「ああ疲れたわ…」
「あれ、せっかくいい気持ちになっていたのにもう終わりか。残念だな」
「そうよ贅沢言わないで。誰にでもする訳ないのよ。高杉さんは特別よ。今度は私がやって貰う番だわよ」
「よし、しからばやってやるか。少し力を入れて痛くするぞ」
「構わないわ、お願いしま〜す」
(何だ、これといって話題を求めている風でもなさそうだ)

「どうだ、少し効いたかね」
「高杉さんもお上手ね」
「上手だなんてお世辞言って、もう誰かさんのように疲れてしまいそうだ」
 しばらくすると純子は後ろにどんどんもたれかかってきた。伸二郎の両手が肩から前に滑っていった。首筋から乳房に……。純子は目を閉じて伸二郎に身体をゆだねてきた。 窓のカ−テンを引き、彼女を押し倒した。

「あっ、やめて!」といいながら抱きついてきた。伸二郎の唇は首筋から下へと這っていった。同時に左手で彼女をしっかりと抱きかかえ、右手の愛撫は徐々に彼女を佳境へと導いていった。
「やめて、それだけはやめて!」「……」「お願いなの。どうしても駄目、やめて!」
 それほど強い抵抗ではない。女性の口から“やめて”は“やめないで”とも受け取れるのだ。でも伸二郎は我慢した。しばらく抱擁後身体を離した。

「若い女性は身体を粗末にしては駄目だよ。僕でなかったら最後まで突入していたかもしれないところだ」
(いい気なものだ。今の伸二郎に偉そうなことを言える訳はないじゃないか)
 こう思いつつ最後の我慢をした自分を(よく耐えた)とほめた。

「私ね、今学校の先生のところに下宿しているのよ。この間奥さんが子供さんを連れて里帰りして留守だった時のことだけど。 その夜、旦那さんの先生が私にお茶でも飲まないかと居間に誘ってくれたの。そうしたら急にそばに寄ってきて、体中触るのよ。 そのうち(すぐ終わるから、やらせろ)っていうのよ。(いやだ!)っていっても(すぐ終わるから)だっていってさ。すぐでも何でも関係ないじゃない?(絶対いやだ)って抵抗したわ、だけど…」
「だけど?…それで相手は我慢したの?それとも…暴行?された?」
「許すわけないでしょ、好きでもないのに。まるで強姦未遂よ。高杉さんと違って」
(おいおい、僕なら許したのかよ。何か損した気がするな。でも我慢は大事だ)

 今思う、あの時我慢しなければ、私と彼女との関係はどうなっただろうか?


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