鈴と柚 第7章  作:ruri

  第7章 寺へ向かう

 私達は、まだ少しギクシャクしていた。あんなことがあってから、私
達はおたがい気を遣いあうようになった。きっと、二人とも普通にした
いのだろうが、わざわざ「普通にしよう」などという訳が無かった。ど
ちらもこのままでもいいと思っていたのだ。逆に、ことの重大さに気付
くことが出来て、良かったかもしれないとも、思う程だった。
 …さっきまで馬鹿みたいに普通に過ごしていたって言うのが、本当に
嘘みたいだった。どちらもしゃべらず、ただ一言。鈴が「行こうかな」
といって、今は柚が鈴について歩いているだけ。いつ話し始めるのかな
あ…と、両方が思っているので、適当にゆっくり進むが、話はいっこう
に進まない。逆に、「もう自分から何か話そう」と思った。両方共が。
「あのね!」
 予想外に、二人とも同時に話始めてしまった。それを恥ずかしいと思
ったのか、ふたりとも赤面し、ため息をついた。
 はあ……鈴からも話があるのかな?ハモっちゃったし……
「えっと、御守りがいるから、あの…いま、寺っぽい所に向かってるん
だよね…分かって…る?」
 鈴が、まばたきを何回もしながら、今向かっているところを話した。
いつも通りに戻るには、時間がかかる。
「そうなんだ…ありがと。」
 すると、本当に寺の様な所が見えた。あと、なぜか後ろから邪悪なオ
ーラのようなものが感じられた。恐ろしい、何か、危険なものが…
 その危険物を感じ取ったのか、鈴がいきなり柚の手を引っ張り、走り
始めた。
「だめ!早く寺に入るよ!悪霊だよ!!」
 これが悪霊!?なんて思うよりも早く、寺の方へ鈴が走る。ぐんぐん
風を切るように走る。なんだか軽い。月にいるような気分だ。あれほど
運動が嫌いだった私でも、何だか好きになっちゃうほど、走るのが楽し
く思えた。
 そして、右手には寺が見えた。階段を駆け上り、すぐに寺へ入り、御
守りをおおざっぱにぶんどった。寺には結界でも張ってあるのか、黒い
魂のような悪霊は、自分たちに気付かずにさっさと通り過ぎて行った。
 この間、たったの20秒間。すごく速かった。
「これで大丈夫だよ。はあー…怖かったねー…」
 でも、これでひとまず安心だった。二人は少しの間この寺にとどまっ
ていた。きっと、この世界の中で、この寺は一番安全なのだろう。
 






 


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