ラムちゃんの1日  作:堕天使

わたしの名前は仔羊ラム。
こんな名前だけど、もう少ししたら店頭に並ぶってわけじゃない。
仔羊が苗字で、ラムが名前。あ、それくらいわかるか。
昔から周囲の人たちに「ラム肉ラム肉」って馬鹿にされ続けたけど、そんなのは全然気にしない。
だってラム肉ってわたしの大好物だし。いいの。
名前がそうだったからなのかどうかはわからないけど、
どうしても鶏肉や豚肉とかは食べれない。ましてや牛肉なんて考えただけで吐いちゃいそう。
そういえばよく考えたら……お父さんとお母さんもラム肉しか食べないかも。
今さら気づくわたしって何?
「って、やばっ!早く帰らないと!」
今日は夕方から誰もいないから留守番頼まれてたんだっけ。
でも、苦手なのよね、今の家。
1ヶ月前のことなんだけど、
お母さんの念願だった一戸建てを建てることになって、
「郊外だと頻繁に行けないから、そこの近所に小さな部屋を借りて毎日様子を見よう」
なんて言って、お父さんがもう張り切っちゃってさ。
あっという間に一戸建てを建てるとこの近所に来ちゃったってわけ。
それで何が苦手なのかというとね?
そこの家……出るのよ。アレが。
気配を感じただけでもゾワッとするのに、姿を見た日にはもう……絶対に気絶しちゃう。
なんであんなワサワサと動くうえに黒光りしてるのかしら。あー!想像もしたくないわ。


なんだか……気持ち悪いこと考えてるうちに、その問題の家に着いちゃった。
「えっと、鍵、鍵……と。……あれ?」
去年お母さんに作ってもらったこの小さな手さげカバンの中に入れておいたはずなのに。
「無い!」
え?なんで?どうして!?
どこに忘れちゃったんだろう!?
えっと、たしか今日は学校に行った時にあそこに置いて、帰りまでずっとそこにあって、
下校する前に中を確認して……その時にはあったはず。
ということは、忘れたんじゃなくて学校を出たあとの帰り道のどこかに落としたってこと?
「あーもう最悪。あ、でも……」
まさかと思うけどズボンのポケットに入ってるとかいわないよね。
「……」
とっても残念なことに、無い。どのポケットを探しても、無い。
いや、どのポケットを、とか言ってるけど2つしかないんだけどね。
とにかくこうなったら今来た道を戻りながら探すしかないか。
「めんどいなぁ。なんで今日にかぎってこんな……」
なんて文句言ってる場合じゃないや。急がなくちゃ。


もう家と学校を2往復もしちゃってかなり疲れてるんだけど……
全っ然、見つからない!なんなのさ!
「わたしの足が棒になっちゃうっての」
なんて言いながらテクテク歩いてたら、
「ラムちゃーん!!」
と、後ろからわたしを呼ぶ声が。
振り返ってその相手を見ると、親友の仔豚トンちゃんがこっちに走ってくる。
「はぁ、はぁ……やっと追いついたー。もう……ラムちゃんったら早いんだもん……」
トンちゃんのものすごい息切れをしてる姿を見てると、
――どんだけ歩くスピード早いんだよ、わたし。
なんて思ってしまう。
「こ……これ。……はい」
突然、トンちゃんがわたしの前足、いや、手の上に何かを置いてきた。
「え?な、なに?」
ちょっと驚きながら渡されたものを見ると……なんと家の鍵!
「えっ?ちょっとこれ……うちの家の鍵じゃん!なんでトンちゃんが?」
「あ……えっと……ちょ、ちょっと待って。はぁ、はぁ。」
まだ息切れがおさまらないらしい。どんだけ全速力で走ってきたんだろう?
そもそもなんでトンちゃんがうちの鍵を持ってるの?
不思議なこともあるもんだなぁ、なんて考えているとトンちゃんがしゃべりだした。
「えっとね?さっきラムちゃんと遊ぼうと思って家に行ったら、
それが玄関の前に落ちててさぁ。チャイム鳴らしても出てこないから探してるんじゃないかと思って」
「え……玄関の前に?」
「うん、その鍵ってラムちゃんがいつも持ち歩いてるやつだよね?」
「う、うん。いや、そうなんだけど……あれぇ?」
もしかするとカバンの中を探してる時に落としちゃったってオチ?
しかも鍵につけてるこの羊の小さなぬいぐるみがクッションになって音も聞こえなかったってこと?
いや、今はもうそんなことはどうでもいいや。
「ありがとう、トンちゃん!ほんっとにありがとう!!」
「え……あ、う、うん」
半分あきらめて途方に暮れてた時のこの親友の女神様みたいな優しさに感動して
だらだらと涙を流しながらお礼を言ってたら、トンちゃん……思いっきりドン引きしてた。


今は、夕方のあのドタバタなんてまるで無かったかのように感じさせる静かな夜。
結局あのあと、お父さんとお母さんが帰ってくるまでトンちゃんとうちで遊んでたの。
1人で留守番するのって寂しいから無理言って付き合ってもらってただけなんだけどね。
「え〜!まだ遊ぶの〜〜!?もう帰る〜〜〜!!」
なんて途中言ってたトンちゃんだけど、最後のほうなんて結構1人で楽しんでたっけ。
お父さんとお母さんの帰りが想像以上に遅かったもんだから、
「トンちゃん、今日は泊まっていけば?」
って言ったんだけど、
「今日は家ですることがあるから……また今度」
だって。
楽しい時間ってほんとにあっという間に過ぎちゃうよね。
ついさっきお父さんがトンちゃんを家まで送って帰ってきたところ。
疲れてるはずなのにありがとうね、お父さん。
でも、わたしも今日は疲れたよ。
学校が終わってやっと家に着いたと思ったら鍵が無くて、家と学校を2往復もして探しまくって、
見つかったあとはちゃんと留守番しながらトンちゃんとずっと遊んでて。
あ、お母さんがラムチョップを作ってたからお手伝いもしたっけ。
とにかく今日はよく眠れそう。
明日も今日みたいに楽しい1日になるといいな。鍵を無くすのはもうイヤだけど。


お父さん、お母さん、おやすみなさい。
そしてトンちゃん、今日はほんとにありがとう。


おわり


(あとがき)

ちょっと(?)ふざけた名前の登場人物にしてしまいましたが、
ごくごく普通の日常の中で‘子どもの大変さ’というものを少しでも描ければと思い書いてみました。
絵本みたいな感じで話が短いうえに、起承転結も無く……どれだけ伝わるのかどうかわからないですけど、
もしも最後まで読んでいただけたなら嬉しく思います。

次回作は長編でもっと大人っぽいものを予定しています。
遅筆な自分ですが今後ともよろしくお願いいたします。
                                                         堕天使


コメント

pochir 2009/08/22 08:20
始めまして
とても読みやすかったとおもいます^^

例のものは新しい家が出来るまでの我慢ですね^^;


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