0と1と少女 No.1 「入学後」  作:音 音音

 一人の友達。
 僕には、他の友達とは違う、別の友達がいた。
 違いは体の有無だ。
 少女と話したのは3日前の入学式後。
 僕の独り言にいきなり介入し、結果、仲良くなったのだ。
 その少女は突然、僕に尋ねてくる。とかいいながら、僕から話しかけるとたまに返事が来る。けっこう気まぐれなのだ。
 この世にこんな現実にそぐわないことがあるとは思いたくないが、ある以上、付き合うしかない。じゃないとろくに生活できそうにない。
 だが、正体が分からなくても、僕はこれからの生活を楽しんで過ごせるような気がした。
 その少女の、明るく、ポジティブな話し方によって……。

 直江津高校の入学式が終わって3日後になった今日この日、最初はおどおどしていた1年生も普通に登校できるようになっていた。
 僕もその一人である。
 僕は前山治夫という。中学校は勉強嫌いで全く勉強せず、部活は何もやりたくなかったのでどこにも入部しないという理想の生徒にはほど遠い生活を送っていた。
 個人的には理想の生徒ってどんな生徒のことを指すのか、校長にでも聞きたいところだ。
 正門から入る僕を自転車やいろいろな鞄を持った高校生が通って行く。
 その光景はまるで僕が見えていないかのように通って行く。だからって、本当に見えていないわけではないのだろう。
 ただ、少しこの学校自体が変なだけだ。
 
 一階の廊下側から教室のドアをがらりと開ける。
 教室には大勢の生徒がいて、同じ中学校での4,5人の集まりが多からずともあった。
 大体が男子か女子の集まりだ。気軽に話せる仲間がいてとても幸せそうな顔をしている。
 はは、楽しそうだな。
 見る限り教室の机は三十六個あり、天井の奥には最近買った冷暖房完備のエアコンがついている。壁は鼠色をしていて、その色から最近の耐震補強というやつだろうと予測できた。
 僕は複数の集団をちらほら見て椅子に座る。
 席は後ろの中側で、席に座ると教室が百八十度見渡せて気持ちいい。僕はこの場所が教室の中で一番好きだ。
 左の窓からの風景は運動場が少し見える程度で、3階から見える風景と比べるとそんなに大した風景でもなかった。
 僕は再度個々の集団を見る。
「友達かぁ」
 僕と同じ中学校の生徒はこの学校にはいなく、3日目になっても友達はできていない。
 そして今日も友達を作る気はない。
 ……ということで、友達なんて勝手にできるだろうと時間の経過に一任して鞄から教科書を取り出すことにする。
 わいわいと騒ぐ教室、少しうるさいと感じながらも、3日経って自分だけ友達がいないのかなぁ〜とふと考えていると……。

 ……これは灯台もと暗し、というべきなのか?

 左の席でぐったりしている男の人がいた。
 ぐったりというよりは――やすらかに寝ている……といったほうがいいのだろうか。
 黒髪の男が顔を机につけて寝ていた。両腕は顔を隠すように机の上にあり、そのまま動く気配がなかった。
 一体どういう神経してるんだろうか?
 3日目とはいえ、寝るなんてことがあり得るのかと疑問に思う。
 ……とりあえず、僕には関係のないことだし、眠らせてあげた方が本人の為だ。そう思い、気にせず鞄の中にある残りの物を机の中に入れる。
 鞄の中の教科書やノートなどを取り出した後、左腕につけていた腕時計をふと見ると、ちょうどHR開始時間になっていた。
 ……チャイムが鳴る。どこにいても必ず分かるような大音量と特融の音域で、それは、生徒達の口を挟むように鳴って席に座らせるのを促した。
 個々の集団が散って席に座る。左にいる生徒は相変わらず寝たままだ。
 全員が席に座ると、ざわめいていた教室が一気に静かになった。……しかし前の方にいる男二人だけは前後で話していた。
 入学して3日目だというのに、もうマナーが崩れてきたのか、と僕は男二人を冷ややかな視線で見つめる。
 ……一分くらい経った後、男の教師が入ってきた。
 男の教師はきっちりした黒いスーツと緑色のネクタイで教室に入っていき、いかつい顔で教壇の前に立つ。生徒の視線が一斉に向けられた。
 だが、いかつい顔と言っても、実際は心優しい人で滅多に怒らない穏便な人なのだ。と言われている。僕はまだそのことについて確証がない。だから心の中では半信半疑といったところだ。
「え〜、今日は特に予定はありません。今日も元気に過ごしていきましょう」
 HRという今の時間帯はこの学校では十分なのだが、担任は今の一言でHRを終わらせる気らしい。僕にとってはただ暇な時間が増えるだけなので、もう少し粘ってほしいと願うと、担任は僕の左の席に気づいた。
「……おい、え〜っと前山、横で寝ているやつを起こしてくれ」
 僕と左の生徒以外の視線が一斉に後ろに向けられる。こんな状態でも左の生徒は不自然な程寝ていた。
 僕は内心しどろもどろしながらも、とりあえず寝ている生徒を起こしてやらなければと声をかけてみる。
 ……起きる気配がない。体はぴくりともしなかった。
 こいつ、僕の立場が分かっているのだろうか?
 起きないので次に背中を軽く叩いた。……まだ起きる気配がない。
 …………。
 僕の脳裏に焦りが生まれる。
 やっぱりこの人おかしい。背中を叩いても起きないなんてあり得るのか? 叩く力が弱かった? まさか。……もしかして、意識不明、死亡!? いやいやあり得ないあり得ない。じゃあなんだろうか、わざと? なぜ?
 ……と、とりあえず。落ち着いて。
 僕は軽く深呼吸をする。
 落ち着いた僕は「先生、起きません」と諦めたふりをして先生にヘルプコールをした。
 担任は頭でも叩いてみろ、とやや笑い気味に即答した。たぶん、このことを楽しんでいるのだろう。生徒を使って楽しむ担任があるか。
 僕は立ち上がって寝ている生徒の横に立ち、仕方なく右手を少し上げる。
 ごめんね、僕だってこうしたくはなかったんだけど。仕方がない、責任は全て寝ている君にあるのだから。
 ゆっくりと自分の顔の高さまで右手を上げ、減速する。
 そして、30度の角度で一気に振り下げ、相手の後頭部に直撃させる! パーンという乾いた音が教室内に鳴り響いた。
 教室内の視線が寝ている男に一斉に注がれた。興味ありすぎだろ。
 ……男は動かない。それでもまだ全員の視線は揺るがない。それほど叩いたことに対して期待しているのだろう。
 僕もそれに期待している。その理由として自分の右手にまだ叩いた時の衝撃の余韻が残っている。
 数秒が経つ。いくらなんでも寝ているわけではなさそうだなと思った――突然、僕の視野に黒いものが右から出てきた。
 僕はそれにすぐ反応してその方向に振り向く。
 服装の違う少し背が高い人――担任だ。
 担任は寝ている男の正面に立ち、頭と両手の間に手を押し込んで寝ている男の頭を持ち上げた。
「やっぱりな」
 担任が呆れたように一言そう言うと、寝ていたはずの男から声が発せられた。
「あちゃ〜、ばれた」
 その声は寝起きの声とは思えないあっさりとした声だった。それからして、男は寝ていたのではなく寝たふりをしていたのだ、と僕は理解した。


あとがき

 新人 音 音音です。
 さて、なぜあとがきを書くのかと言うと、あとがき目当てで読む人もいるからです。
 そんな読者のためを思い、これを書いたわけです。

 まず、前回の作品があったのですが、夏休みということで推敲してみると……大変な量の変更があったため、このように文の大幅な変更がなされています。
 また、前回投稿した時には、一回の投稿に大変な量があったため、少し刻むことにしました。これで読者の方も読みやすいと思います。
 
 最後に、あなたの貴重な時間をこの小説を読むことに費やし、感謝いたします。


コメント

3点 ヨワモノ 2009/08/07 21:37
リアルな現実ですごくいいですね。
本当にあったことみたいです。
次回作も期待しますよ!

3点 YADO 2009/08/19 21:45
あれ?続き・・・消しちゃったんですね^^;
これから数回に分けていくんですね。
ではでは、前回まで書いていたストーリーの続き、楽しみにしてますね。

pochir 2009/08/22 08:29
前回のアップされた作品は残念ながら読んでなかったのですが
いろいろなところで細かい描写が入っていて
これから先も楽しみです
あとがき結構私も読んでしまいますねー

3点 aaa 2009/08/22 10:38
面白かったです。
続きも読んでたけど短くまとめたんですね。

音 音音 2009/08/22 17:14
いえ、短くまとめたというより、一気に消去したんです。
何十日か日が経ったときに推敲をしたら、「これじゃあ支離滅裂じゃない!」と、いうことになって、最初から、書きなおすことにしました。
前よりはよくなっているはずですし、今日、編集長という人に編集をお願いしてきました。
出版に関わっている人ではないんですけど、けっこうためになる人なので。


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